病院コラム⑭<「病院が消える日」~経営現場から見た制度の歪み~>

「このままでは、ある日突然、病院がなくなります」

 

日本医師会と6病院団体が2024年度診療報酬改定後の病院経営の実態について、春先に発表を行いました。2023年6月〜11月と、改定後である2024年6月〜11月の経営状況を比較した結果、医業利益率・経常利益率ともにマイナスであり、赤字病院の割合も増加していることが明らかになりました。

 

日本医師会と同団体は次のように主張しています。

 

「診療報酬は公定価格です。しかし、物価や賃金の上昇に見合うかたちで診療報酬が上がっていません。こうした上昇に適切に対応した診療報酬の仕組みが必要なのです。(抜粋)」

 

実際に、弊社が支援する医療機関においても、急性期病床は赤字運営、療養型病床はわずかながら黒字を維持、精神科病床は収支均衡に近い状態が続いております。

 

また、首都圏近郊の病院では、施設の老朽化に対する改修の見通しが立たず、やむを得ず病床の閉鎖に至るケースも複数確認されています。

 

注目すべきは、多くの病院において支出が例年を大きく上回っているにもかかわらず、収益の伸びがそれに追いついていないという厳しい現実です。光熱費、医療材料費、人件費といったコストの上昇が続いており、現在の診療報酬では、物価上昇や人件費高騰といった経済環境の変化に十分に対応できていません。診療報酬は公定価格であるため、市場価格の変動を直接的に価格転嫁できない構造にあり、医療機関の経営努力だけでは吸収しきれないレベルにまで負担が高まっています。

 

 

 

2024年度補正予算では、「医療需要等の変化を踏まえた医療機関への支援」として、1床あたり約400万円で病床を買い取る交付金制度が設けられました。当初、国は全国で7,000床の応募を想定していましたが、実際には5万床もの希望が提出されました。

 

しかし、条件が「2期連続赤字」かつ「支給額は赤字額の半分程度」と厳しく、希望通りの支給が受けられた病院はほぼ存在しなかったと思われます。国としては、「予算を用意すれば病床削減は可能」ということを改めて認識したといえるでしょう。

 

2024年6月6日に行われた、自民・公明・維新による「社会保障制度改革協議会」では、2027年4月の新・地域医療構想のスタートに向けて、病院病床を11万床削減するとの方針が打ち出されました。

具体的には、

  • 一般・療養病床:5万6,000床削減
  • 精神病床:5万3,000床削減
  • 総事業費:約4,800億円

 

これにより、約1兆400億円の医療費削減効果が見込まれるとの試算も報じられています。

 

病床削減が医療政策の柱の一つとして具体化されつつある中で、今後の制度設計や地域医療への影響については、引き続き注視していく必要があります。

 

来年度の診療報酬改定に向けた議論は、これから中医協で本格化しますが、今回の「骨太の方針2025」には、「高齢化による自然増に加え、経済・物価動向等を踏まえた対応分も加算する」

 

という表現が盛り込まれました。これは過去には見られなかった表現であり、医療団体(日病協・全日病)からは一定の評価が出ています。ただし、年末の予算編成に向けて、「歳出改革努力の継続」という文言も残っており、まだ予断は許されません。

 

今年の民間企業の平均賃上げが約5%と言われるなか、病院の賃上げは平均2.51%にとどまっています(2025年6月25日発表「医療機関における賃金引上げの状況に関する緊急調査」より)。

 

価格転嫁ができない病院経営にとって、人材流出を防ぐための賃上げは不可避です。特に事務職の確保が年々難しくなっており、最低賃金の上昇に対して病院事務職の時給の上がり方が追いついていないため、既存職員の賃金も見直しが迫られています。

 

こうした状況を踏まえると、2年に1回の診療報酬改定では対応が間に合わないと感じます。

 

来年の診療報酬改定では、入院基本料への上乗せなど、分かりやすく公平な改定が望まれます。また、物価高騰にスライドするような柔軟な加算制度の導入も期待されます。

 

医療提供体制を守るためにも、現場の声を反映した、実効性のある改定を切に願います。