病院コラム⑪<中小病院の宿日直許可と医師の働き方改革>

働き方改革は、いよいよ医師の勤務時間にも適用されるようになる。大企業が2019年4月から、中小企業が2020年4月から、医師、自動車運転および建設業の猶予措置が廃止され、施行されるのが2024年の4月からとなっている。

 

年間の残業時間が720時間を超えないよう、雇用者は医師を働かせすぎてはいけないという義務を負う。A水準、B水準、C水準など細かい制度の話はここではしないが、中小病院にとっての働き方改革の影響を考えてみたい。

 

中小病院は比較的、院長が経営のトップでいることが多く、当たり前のことであるがオーナー院長や法人の役員を務めている医師は働き方改革の対象となる従業員ではないので関係ない。当直の回数や長時間の勤務をされている実態はあっても、経営側の人間は対象除外である。一方で同じ常勤医でも中小病院に勤務している常勤の先生方は、比較的定時にお帰りになっているような気がする。もちろんすべての勤務医がそうというわけではないが、退勤時に「タイムカードの前で定時になるのを待っているものがいる」などと院長からの愚痴を聞かされたこともあった。

 

今回、中小病院において医師の働き方改革により大きく影響を受けるのは、中小病院に勤務する非常勤の医師であり、特に大学病院等から派遣されて当直や日曜日の宿直をお願いしている医師である。その派遣されてくる医師は、毎日大学病院等で勤務しながら中小病院に非常勤として勤務している。中小病院に非常勤で勤務している時間も労働時間と考えるため「時間外労働」が膨大な時間数になってしまう。本業と副業・兼業先の労働時間を通算して計算される。「宿日直許可」を受けている病院の宿日直については労働時間から除外されるため、中小病院としては引き続き大学病院などから非常勤医師を受け入れるためにも「宿日直許可」を受ける必要がある。

 

この数年、弊社クライアントにおいても宿日直許可の申請を出して許可をもらっている。病院によっては何十年も前に許可をもらっているところもあり驚いた。一度許可が下りたものは取り下げない限り有効であるようだ。

 

令和5年度は施行まで最後の1年ということもあり、申請をすると概ね許可されるように感じる。でなければ、地域医療に携わっている中小病院に医師が不在となってしまう。

 

いくつかの病院での経験を参考に申請のポイントを絞って説明すると、一番は、当直時間帯、日曜日の日直の時間帯に業務が本当に忙しくないということ。それが当直日誌などで表現されていること。宿直室の設備や衛生管理(現地視察の際に見られる)が整っており「睡眠の確保」がされていること。逆に、宿直の回数が週1回や日直が月1回という許可基準はそれほど厳しくないという印象である。唯一、事前相談で引っかかったのは、水曜日の夜に当直し、翌日朝から外来勤務を行い、その晩も当直する非常勤の医師であった。

 

また、宿日直手当についても1日平均額の1/3以上とあるが、関東圏内の中小病院ではおおよそ4万円~4万5千円以上を払っている場合が多いため、計算するまでも無く基準を超えていることがほとんどである。これを計算式に当てはめて作成するのがとても面倒ではあるが、労働局の担当によっては計算しなくとも許可を通してもらえたケースもあるため、担当に相談していただくことをお勧めする。

 

医師の働き方改革と言っても、救急病院でたくさんの救急車が来るような病院以外のほとんどの中小病院は、ただ単に宿日直の時間帯、勤務医は寝ていますよということの許可をもらうだけの話になってしまっているような気がする。