診療所経営コラム⑦<診療所経営の基本>

診療所経営の基本

2019年4月から「働き方改革関連法」が施行されました。使用者は10日以上の年次有給休暇が付与される全ての労働者に対して、毎年5日、時季を指定して有給休暇を与えることが義務化されます。一般的に診療所のスタッフは、人数が限られているため、自由に有給休暇取得できる環境でないのが実情です。しかし4月以降は有給休暇取得を奨励しなければならず、確実にスタッフを5日以上休ませなければなりません。つまり「働き方改革関連法」は診療所経営に確実に影響があります。是非今後、政府内での検討内容にご注目ください。

診療所経営は、院長先生が1人でも多くの患者さんを適切な診察をして満足度を高め、再診に繋げていくことが基本的な流れです。その為には院長先生が診察に集中するため、「働き方改革関連法」に沿ったスタッフの環境整備をすると同時に、医療事務・看護師・検査技師等がどの様な業務を行なっているかを把握し、再検討していくことが重要です。つまり、日常業務の洗い出しと業務改善という事です。各スタッフが月~土の始業時間から終了時間までどの業務を行うのか。無駄な業務、特定のスタッフしか出来ない業務等を明確にしながら、院長先生をサポートする各職種の業務改善が必要となります。
色々申し上げましたが、診療所経営の基本は、院長先生の経営マネジメントにあります。そこで院長先生のマネジメントの例として、スタッフで苦労されたケース、スタッフで比較的上手く行っているケースを紹介したいと思います。

A診療所は開業5年目となる駅近型の整形外科診療所です。こちらは院長先生がスタッフともつれ始めてしまった例です。A診療所では①院長先生とスタッフ間のコミュニケーションが極端に少ない ②仕事の丸投げとチェックを行わない ③スタッフに対して労いの言葉がない ④院長が人に無関心 ⑤スタッフへの簡易な注意に労働法を持ち出すこと等が多々あり、最終的には閉院し勤務医に戻ってしまいました。これはマネジメントを実行していなかった例と言えます。

B診療所は郊外型の呼吸器内科診療所です。このB診療所は開業して12年になり、開業以来、新患数(新しくカルテを作る患者数)月100人を今も継続して達成しています。大変忙しい診療所にも関わらず、スタッフは医療事務4人、看護師3人が全てパート社員です。なぜ常勤を雇わずに診療所を回していけるのか。それは、患者さん、スタッフ、自院をとても大切にする院長先生のマネジメントにあります。「人件費は経費ではなく、将来的投資」という哲学の下、常に①感謝の気持ちを持ってスタッフに接する ②感謝の言葉を表す ③褒める(なるべく叱らない) ④スタッフの自主性を尊重する(但し適時報告はさせます) ⑤最後の責任は院長が取ると言うことを実践していらっしゃいます。B診療所は売上げもとても良く、院長先生が人件費を意識しすぎていない為、アットホームで働きやすい環境が出来ており、結果として人件費も少なく、定着率も良く、スタッフとの良好な人間関係が築けていて、院長先生のマネジメントが充分に発揮された例と言えます。

それでは診療所経営のマネジメントに必要なこととは何でしょうか。弊社では診療所経営マネジメントは「原理原則の対応」と「時流の対応」の2つに集約できると考えています。「原理原則の対応」とは診療所経営に必要な基本的な打つ手をいいます。具体的には、①院長先生の診療方針の徹底 ②スタッフの考えを理解する ③組織体制の整備 ④院内協力体制の整備 ⑤患者満足の向上。そして「時流の対応」とは、その時々に変化する法律・制度等に対しての打つ手をいいます。これは、①診療報酬改定 ②介護報酬改定 ③地域包括ケアシステム ④地域医療構想 ⑤働き方改革 ⑥税制改革等のことを指します。経営者である院長先生は「原理原則の対応」「時流の対応」を念頭に置きながら、ご自分が診療・処置・検査を行いやすい院内体制を作るため、スタッフとの密にコミュニケーションを取り、職場環境を改善し、スタッフ教育を行っていく事が必要となります。今は大変な時代に入ったという事を認識していただく事が診療所経営マネジメントのスタートかもしれません。
そして最後に診療所経営マネジアル・グリットを説明させて頂きます。これは院長先生がマネジメントを行う際の意識傾向を表したものです。縦軸が人間関係意識の強弱、横軸が成果意識の強弱となり、意識傾向を4パターンに分けることが出来ます。

1、人間関係意識の弱、成果意識の弱→「バランス型」であり、スタッフは中途半端で、ハッキリしない院長先生に対して諦めと開き直りの気持ちになります。
2、人間関係意識の強、成果意識の弱→「人間関係重視型」であり、スタッフに怒れない、優しいだけの院長先生を舐めてかかり、モンスター・スタッフを育成してしまいます。
3、人間関係意識の弱、成果意識の強→「成果重視型」であり、怒りすぎで厳しいだけの院長先生についていけなく、離職率が高くなります。
4、人間関係意識の強、成果意識の強→「診療所経営管理型」では、診療所内の人間関係、成果、医療のクオリティーを重視し、この診療所で働けて幸せであることを実感します。

このように、院長先生の意識傾向も参考にして、毎日の診療所経営マネジメントを実行していただければ幸いでございます。