病院コラム⑥<中小病院と地域包括ケア病床>

平成26年の診療報酬改定で新設された地域包括ケア病床(病棟)は、名前のとおり地域包括ケアシステムを担う病床として注目を浴びている。もともとの「亜急性期入院医療管理料」から、基準も点数も大きく変わって登場したという経緯がある。

入院医療費の包括化は以前から話題になっており、将来的に入院医療費は包括になると思われるが、DPCのように疾患によって包括点数に差があるのではなく、この地域包括ケア病床(病棟)は疾患を問わず同じ包括点数となっている。少し強引ではあるが、厚生労働省としては、これで入院医療費をコントロールしやすくなった。

現在の地域包括ケア病床の1日当たり単価は、中小病院にとっては魅力的な単価である。手術を中心にしている外科系の病院でも、平成28年度改定で手術と麻酔が包括外となったことで入院医療費は大きくプラスとなった。

今年の平成30年度改定では、前回改定に加えて更に、地域包括ケアシステムの構築をより一層推進する観点から、「在宅医療や介護サービスの提供等、地域で求められる多様な役割・機能を有している場合」について評価された。具体的には、『①訪問診療を行っている。②訪問看護を行っている。③開放型病院共同指導をやっていること④介護保険の居宅サービス(訪問介護、訪問看護、訪問リハビリ)を行っている。』の4つのうち2つ以上を行っていると高い入院料を算定できる。

地域包括ケア病床(病棟)は平成26年に新設され、当然多くの中小病院は自院で取得が可能かどうかの検討に入った。10対1や13対1の入院基本料で、地域の2次救急を担っている病院は、看護配置をかえる必要が無いので比較的ハードルは低く、現在多くの病院で病床転換されている印象はある。しかし、一方で内科系の一般病院で老人医療を長くやってきた病院にとっては要件にある疾患別リハビリの「リハビリ室100㎡の確保」が大きな課題となっている。

厚生労働省が考える「ポストアキュート機能(急性期経過後の受入)」として、患者から急性期の大病院で受けていたリハビリを継続したいという要望に応えたものであろう。実際、高度急性期の病院に連携を目的に挨拶に行くと、よく「リハビリが出来ますか?」と質問されることが多い。

残念ながら、首都圏近郊の中小病院で100㎡のリハビリ室をもっている病院ばかりではない。

そのため、地域包括ケア病床を取得する為には内装工事が必要であり、理学療法士や作業療法士等を雇用しなければならない。データ提出加算も要件となっているので、必須ではないが電子カルテの導入を考えなければならない。

内科系の中小病院が地域包括ケア病床へ転換するに当っては注意しなくてはいけない大きなポイントがある。それは、いつ「はしご」が外されるかという点である。リハビリ室工事、理学療法士等の雇用、電子カルテへの投資を含めると億を越える投資が必要となる。現在の包括点数が、2年に1回の診療報酬改定の度に、下げられていったら、投資回収に不安が残る。

また将来的に、中小病院も厚生労働省のデータ収集の為の「データ提出加算」への対応が求められてくる。平成30年度診療報酬改定では、急性期一般病床(旧一般病床入院基本料7:1,10:1)と許可病床200床以上の療養病床でデータ提出加算が必須となった。今後地域一般病床や小規模の療養病床にまで「データ提出加算」が施設基準上必須となる可能性もある。

中小病院は段々と外堀が埋められてきている。生き残りの選択肢は多く残されていない。早めに、地域における病院の立ち位置を明確にして、病院の方向性について決断しなければならない時期にきている。