医療と精神福祉のはざまにある精神科病院のあり方は、日本社会の特徴もあいまって、ここ数年いろいろな議論がされながら明確な方向が打ち出されずにいます。
かれこれ18年くらい前に受け入れ条件が整えば退院可能な7万人を退院させて36万床ある精神病床を10年かけて減らす計画が有りました。その最初に書かれていたのは「まずは国民の理解から」であったことを記憶している。精神科病院の多くは人里離れたところにあって、町から「隔離」、「閉鎖」されているイメージが強い。今でこそほとんど見られないが、弊社25年の過去を振り返ると、当時まだ「鉄格子」の名残がある精神科病院のコンサルを請け負っていた思い出がある。
12年前に「今後の精神保健医療福祉のあり方等に関する検討会」、その後いくつかの継続検討会を経て「長期入院精神障害者の地域移行に向けた具体的方策に係る検討会作業チーム」での検討報告書に書かれていることは、精神科病床に長期で入院している患者は退院させるのではなく、病床の一部を「生活の場に近い病床」として、そのままそこにいてもらって、人員配置などの医療機能を縮小した病床に集中させ「急性期・回復期及び重度かつ慢性の精神病患者」を入院医療で診るというものであった。弊社の顧問先でも、退院できない精神病患者が20年超えて入院している事例が多くあります。親が生きている間は、その患者も退院できるかもしれませんが、高齢になればなるほど身寄りのない入院患者が増えてしまいます。核家族化の現在の日本では、親族で助け合う風潮では有りません。そう考えると、この「作業チーム」の報告書が述べていることはもっともなものであると、現場を肌で感じている立場からすると思っていました。
ところが、その後打ち出されたのは新聞報道にも大きく取り上げられましたが「精神科病床は1年で退院!」でした。精神病床に初めて入院する患者は、短期間であれば退院率が高くて、1年を過ぎてしまうと、2年3年と長くなってしまう(ニューロングステイ患者)ということで、打ち出された施策である。精神科病院はこの法改正(平成26年4月施行「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正する法律」)に伴い、「社会復帰のための退院支援委員会の開催」が義務付けられて退院を促進することとなったが、退院することは病床稼働が安定しないことでもあり、逆にニューロングステイの患者が多い方が経営上安定するというおかしな結果となってしまっている。早期退院は目指してはいるが、一部国の意向と反して長くなってしまう患者も容認している現状にある。
最近は、「精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築」という、高齢者医療のシステムをそのまま真似て作られた資料を厚生労働省が打ち出してきました。そして、地域において精神科医療を提供している病院・診療所の多様な精神疾患等ごとに医療機能を明確化するための一覧を作ることから始めましょうということのようです。
弊社は医療機関のコンサルティングをしているので、診療報酬での評価を注目しているが、平成28年の診療報酬改定で新設された「地域移行機能強化病棟入院料」は、それなりに高い入院料をいただけますが、毎年20%ずつ病床を減らしていかなければならないというとても不思議な「特定入院料」です。少なくとも弊社の顧問先では考えられません。
ここ最近の改定では、クロザピンという薬が統合失調症にまるで特効薬かのように診療報酬上評価してきたり、政策的は目的で「ギャンブル依存症」を保険適用してみたり、一時期本当の意味で長期入院している精神患者をどうしていくかの議論を何年も行ってきたのに、厚生労働省はこのところ小手先のことしか打ち出してこない。
精神科病床の方向性は迷走しています。いま、建て替え準備中の弊社顧問先も将来が見えず頭を抱えています。